◆ 千の剣法のひみつ ◆

【円海】
「不定期な更新になってすまぬが戦国一夜漬け第五夜じゃ! そしてげすとは……」
【千】
「ここでははじめまして、松元千です」
【円海】
「世界の中心で『ちぇすと』を叫ぶ妹じゃ」
【千】
「ちぇすとーーー!」
【円海】
「ぬおっ! 危ない!
一体何をするのじゃ千殿!」」
【千】
「ふふふっ……今宵の虎徹は血に飢えておる……」
【円海】
「……武士の妹、松元千殿じゃ」
【千】
「はじめまして。わたしたちの活躍が描かれた『戦国の妹 七人の妹』は絶賛発売中です。みなさんもう遊んでいただけましたか?」
【円海】
げぇむをはじめる前に注意があるぞ! 重要なことであるからよおく聞いて欲しいのじゃ!」
【千】
「大変申しわけありませんが、製品版には強制終了させる不具合が見つかっております。お手数ですが本編をはじめる前には修正ファイルを使用してください」
【円海】
「拙僧からも切にお願いするぞ!」












【円海】
「先ほども出たが千殿が叫んでいる『ちぇすと』……疑問に思っている人も多いのではないかのう?」
【千】
「はい、これは薩摩に伝わる示現流剣法で使われる猿叫(えんきょう)という掛け声なんですよ」
【円海】
「開祖は東郷藤兵衛肥前守重位(とうごうとうべえひぜんのかみちゅうい)なのじゃ。厳つい上に長い名前じゃのう」
【千】
「示現流の剣士は蜻蛉(とんぼ)と呼ばれる型を用います。利き手の方向にある肩よりも少し高めに剣を持ち上げそのまま振り下ろす単純なものです」
【円海】
「しかし侮ってはならぬ、示現流の基本は二の太刀要らず。初太刀で必ず相手を屠(ほふ)る着想にあるのじゃ。達人になると衝撃波で敵を倒したらしいぞ!」
【千】
「はい、示現流剣士の切先は音速を軽く超えます。今でも示現流の門弟は剣を振り下ろすさいに前後左右の確認を義務付けられています」
【円海】
「…………千殿?」
【千】
「はい冗談でした」
【円海】
「ぬう……千殿のボケも侮れぬ……」
【千】
「それはそれとして、剣を振り下ろすと相手は死んでいると想定しているので、示現の型は防御を考えていはいません。ですから外されたら終わりです。文字通り一撃必殺で仕留めないと逆にこちらが危くなります」
【円海】
「ゆえに相手を必ず殺せる段階まで剣を高めないといけないのじゃ、そのために示現流の剣士は毎朝毎夕、立木と呼ばれる木の杭に打ち込みを繰り返すのじゃ」
【千】
「その数も尋常ではありません。朝に三千!夕に八千! 言っておきますがこれは本当らしいです」
【円海】
「おお、強いはずじゃ。新撰組の近藤勇も薩摩の初立太刀は必ずはずせと言っていた理由も窺がえるというもの」
【千】
「それだけではありません、上級者になるとなんと……」
【円海】
「なんと?」
【千】
「なんと……『ちぇすと』で会話できるようになります!」
【円海】
「……千殿? 大丈夫かの?」
【千】
「本当ですよ。ちなみに……ちぇすと」
【千】
「これは、こんにちは」
【円海】
「……千殿、ちょっと待つのじゃ」
【千】
「ちぇすと」
【千】
「これはさようならです」
【円海】
「待てと言うておる! 全く同じではないか!」
【千】
「音の高さが違います。中国語のように音の変化で意味を区別するんですよ」
【円海】
「そ、そうなのか……?」
【千】
「それでは円海さんも続けて言ってみましょう」
【円海】
「なんか、てれびの英会話講座みたいじゃのう……」
【千】
「ちぇすと!」
【円海】
「ち……ちぇすと?」
【千】
「違います。それは『今朝何を食べた?』です。そうじゃなくて、ちぇすと!」
【円海】
「ちぇすと?」
【千】
「それは『俺が死んだら夜空を見上げてくれ』です」
【円海】
「だんだん疑わしくなってくるのう……ちぇすと!」
【千】
「それは『君に捧げる僕の愛情は地中海に降り注ぐ太陽の光よりも熱い、例えこの身が滅びようとも君を愛さずにはいられない』です」
【円海】
「絶対に嘘じゃ! そこまでいくと言語ではなく超能力の域じゃぞ」
【千】
「本当ですってば、ほら続けてください」
【円海】
「むう……しからば……、ちぇすと!」
【千】
「ええ! そ、それは……」
【円海】
「む、どうしたのじゃ千殿?」
【千】
「い、言えませんそんなこと……、わたしの口からはとてもとても……」
【円海】
「そう言われると気になるではないか! 拙僧は何を口走ったのじゃ!」
【千】
「そ、それは……お……」
【円海】
「お?」
【千】
「駄目! やっぱり言えない!」
【円海】
「何を口に出したのじゃ! これは妹ひろいんの沽券に関わる問題じゃぞ!」
【千】
「そうですね……あれが世間に広まったら円海さんはもう……」
【円海】
「おおおおっ! なんたること! 最後の最後で妹の境界を侵してしまったのじゃ!
憎い、うかつな自分が憎いぞ!」
【千】
「まあ……そんなに思いつめて」
【円海】
「かくなる上は……」
【千】
「あれ? 円海さんどうしたんです?」
【円海】
「拙僧はもう汚れてしまったのじゃ、兄上殿には円海は旅に出たと伝えておいてくれ……それではな」
【千】
「円海さん、そんなに思いつめないで!」
【円海】
「千殿も放送禁止用語を口走ったひろいんの身になって考えてみるのじゃ!」
【千】
「大丈夫ですってば」
【円海】
「何が大丈夫じゃ! 本編で培ったいめえじが台無しではないか!」
【千】
「だって嘘ですから」
【円海】
「うそ……」
【千】
「はい」
【円海】
「ちぇすとーーー!!」
【千】
「それは『七人の妹をお買い上げのお客様にはフルカラー設定資料集がついてきます。数に限りがあるのでお早めに』です」
【円海】
「いいかげんにするのじゃ!」
【千】
「設定資料集のほうもよろしくお願いいたしますね」
【円海】
「宣伝ばかりですまぬがまた会う日までじゃ!」