◆ 戦国時代のひみつ ◆
【E海】
「オトーネ! 戦国時代って知ってるか?」
【Z音】
「もちろんだ、ヤポンのドンキーどもが殺し合いに夢中になった最高にファッ○ンな時代のことだろ?」
【E海】
「フ○ック! 何言ってるんだ戦国時代ってのはジャポンじゃ一番クールな時代区分なんだぜ?」
【Z音】
「本当かよ。俺はくだらねえと聞いてるがな」
【E海】
「OK。それじゃ俺がどれだけクールかしっかりレクチャーしてやるよ。しっかりついてこいよホームボーイ」

(注:homeboy……米俗語で「不良仲間」あるいは「ダチ」の意味)












【E海】
「じっさいのところどっからどこまでが戦国時代までかってのははっきりしねえ、だが、それじゃ困るんで応仁の乱の終わりから信長が室町幕府の15代将軍、足利義昭を追放する1573年までってことになってる」
【Z音】
「ノブナガ……どこかで聞いた名前だな」
【E海】
「おいおいしっかりしろよ相棒! 信長って言えば延暦寺を焼き討ちにして二千人惨殺したモノホンのサムライだぞ?」
【Z音】
「二千人かよ! すげえなチャールズ・ホイットマンの比じゃねえぜ」


(注:チャールズ・ホイットマン……テキサスタワーの上から11人を撃ち殺し、30人に怪我を負わせた凄腕の殺人鬼)
【E海】
「解かってくれたようだなオトーネ」
【E海】
「戦国時代は確かに今のイラクみてえにひでえ時代だった。だが火事が森林の新しい生態系を生み出すようにまた新しい文化も芽生えはじめていたんだ」
【Z音】
「日本人ってバンクスマツみたいだな」


(注:バンククスマツ……一部のマツ類は火事のあとに結実する)
【E海】
「ちゃかすんじゃねえぜオトーネ、言ってみれば戦乱がルネッサンスを生んだってことなんだからよ」
【Z音】
「それで具体的には何がどうなったんだ?」
【E海】
「まずは商業の発達だ。俺たちのご先祖がローマ人に尻尾を振ったせいでヨーロッパには古くから街道が整えられている。だが、日本はそうじゃねえ。なにしろローマ人が征服するにはクソ遠かったからな」
【Z音】
「……それが?」
【E海】
「商人があちこちに行き来する間に次第に街道が発達するって寸法だ。ちょっと頭を使えよオトーネ」
【E海】
「商業が発達すれば当然商人階級も力を持ってくる。堺は豪商が幅をきかせてノブナガ嫌いの連中がメンチきったこともあったんだ」
【Z音】
「なるほどクールだな、で、他には?」
【E海】
「そうだな、キリスト教や鉄砲が伝来したのもこの頃だ」
【Z音】
「ファッ○ン・ジーザス・クライスト!
昔の日本人ってのは安息日も知らなかったのかよ。昔からワーカホリックだったんだな」
【E海】
「おいおい、オトーネ国籍忘れるなよ」
【Z音】
「おっといけね」
【E海】
「また歌舞伎が発達したのもこの頃だ。能は各地に広まり次第に隆盛を極めていくようになった」
【Z音】
「能に歌舞伎ね……俺はビギーのラップ聞いているほうが性に合うがな」


(注:ビギー……ギャングスタラップ界の西の横綱、ノートリアスBIGのこと。97年に東西ラップ抗争に巻き込まれ凶弾に倒れる)
【E海】
「俺はモノホンのギャングだってか? プレイヤ気取る前に日本文化の深遠を理解しろよ。相互理解と調和が世界を救うんだぜ?」


(注:プレイヤ……俗語で薬の売人、ラップスターなど主に成功者を指す)
【Z音】
「けっ、他人と迎合するのがゲイジュツなら俺はそれに反抗するね」
【E海】
「このパレスチナ野郎! そういうのはもう古いんだよ!」
【円海】
「ちょっと待てい!」
【E海】
「んだぁ?」
【円海】
「よくも拙僧のこうなあを乗っ取ってくれたのう! それもよりにもよって最終回じゃぞ!」
【乙音】
「はあ……はあ……やっと出られた」
【E海】
「だれだてめえ! そっくりな格好しやがって」
【円海】
「七人の妹、真の主役である円海に決まっているであろう!」
【E海】
「ざっけんな偽者! I'm real! you ceep! fool what!」


(意訳すると……「俺はモノホン、おまえはチンピラだ! 文句あっかタコ!」 ラップではスタンダードな罵倒文句である)
【円海】
「これ以上貴様等の聞き苦しいすらんぐには聞くに耐えぬ! ここで成敗してくるわ」
【乙音】
「なんて言ってるのか解かるのか円海?」
【円海】
ふぃいりんぐじゃ!」
【Z音】
「ざけやがって、手前のケツ吹っ飛ばしてやる!」
【乙音】
「ふっとぶのは手前のほうだ! 悔しかったら少しは顔に表現つけて喋ってみやがれ!」
【E海】
「絶対に殺す!」




そして十分後……




【E海】
「く……強ぇ……」
【円海】
「ふん、気を失いおったか他愛も無い」
【円海】
「乙音どの、そちらはどうなったかの?」
【乙音】
「くう……なかなかやるじゃねえか……」
【Z音】
「て、てめえ……気合はいってんな……」
【乙音】
「おおおおおおっ!!」
【Z音】
「どりゃあああああっ!」
【円海】
「うむうむ、重量級の闘いは心が躍るわい」
【乙音】
「円海! 手を出すなよ! コイツはわしの獲物なんだからな!」
【Z音】
「このビッチ! ○○のくせに×××やがって!」
【乙音】
「意味わかんねえけどむかついたぞこら!」
【円海】
「ううむ……どちらも並みの頑丈さではないの。実力も伯仲しているしこれでは決着がつかぬ……」
【凛】
「円海さん、これは何事ですか?」
【円海】
「おお、凛殿よくぞ来た、こいつはなかなかの見ものじゃぞ」
【凛】
「あら、乙音さんが二人います。ご家族のかたですか?」
【円海】
「いやいや。片方の名前は乙音ではなくZ音じゃ名前欄を良く見るがよいぞ」
【凛】
「そんなこと言っても区別がつきません」
【乙音】
「こら凛! 聞こえてんぞ」
【Z音】
「よそ見するんじゃねえ!」
【円海】
「まあ心配いらぬであろ。そのためにどちらが本物か拳で決着をつけようとしているのだからな」
【凛】
「そういうことなら解かりました、偽者は私の鉄砲で始末してあげますね」
【円海】
「ふむ、どちらにしても血が見られるわけじゃな!」
【乙音】
「覚えてろよ円海!」
【Z音】
「隙あり!」
【乙音】
「ううっ! しまったっ!」
【円海】
「おおっ! Z音の拳が乙音殿のわき腹に」
【凛】
「あれは痛いですね。だけど鉄砲のほうがもっと痛いですよ」
【乙音】
「くうっ……」
【円海】
「おおっ! 持ちこたえた!」
【凛】
「ちっ……」
【Z音】
「ハア……ハア……この野郎……、どうして倒れないんだ」
【乙音】
「しょうがねえ……これだけは使わねえつもりだったが……」
【円海】
「乙音殿が上着を脱いで……どうするつもりじゃ?」
【乙音】
「おおおおおっ!」
【Z音】
「ぬう! なんだこの迫力は!」
【凛】
「ああっ乙音さんの背中が!」
【円海】
「泣いておる……乙音殿の背中が泣いておる!」
【Z音】
「ば、馬鹿な……俺が一歩も動けないなんて……くっ!」
【乙音】
「くらえっ! 心意六合拳妹十二形ノ六、しゃがみ中パンチ!
【Z音】
「うぼぁああぁぁぁ!!」
【乙音】
「成敗!」
【円海】
「決着はついたようじゃの」
【Z音】
「もう逃げる力もねえ、好きにしやがれ……」
【凛】
「ふふ、いい覚悟ですね。異人の血も赤いのでしょうか?」
【Z音】
「天国の母ちゃん……すぐ行くぜ」
【乙音】
「………………」
【凛】
「いいお顔です。すぐに楽にしてさしあげますからね……」
【乙音】
「待ったっ!」
【円海】
「ぬっ?」
【凛】
「乙音さん……?」
【乙音】
「タイマンはった以上こいつはわしのダチだ! 死なせるわけにはいかねえ!」
【凛】
「どいてください。でないと乙音さんにも弾が当たってしまいますよ」
【乙音】
「いいやどかねえ! こいつを始末するならわしからにしてくれ」
【Z音】
「あ、あんた……お、俺のためにそこまで……」
【凛】
「どうしても……ですか?」
【乙音】
「おう、乙音に二言はねえ」
【凛】
「ふう……強情ですね、負けました」
【Z音】
「ううっ! お、俺は感動した! 姐さん! 一生ついて行くっす!」
【乙音】
「妹よ! 生まれたときは違えと死ぬときは一緒だ!」
【円海】
「うむ見事にまとまったようじゃな。凛殿もご苦労さまじゃ」
【凛】
「ちょっと残念です……」
【円海】
「凛殿……?」
【乙音】
「Z音!」
【Z音】
「姐さん!」
【円海】
「さて、あの筋肉姉妹はほっておくとして……」
【円海】
「戦国一夜漬けもこれで最後じゃ。長いあいだよくここまで読んでくれたのう、心の底より礼を申し上げるぞ」
【凛】
「七人の妹はまだ発売中ですが、次回作の狂った教頭も宜しくお願いいたしますね」
【円海】
「それではまた会う日まで、さらばじゃぞ!」